めも

エッセイよりは酷い殴り書き

日記

久々に友人とあって飲みに行こう!となった。そうしたらやりたいことまだまだあるとなってリストにした。
・飲みに行く
・鍋をする
・ストリップ劇場に行く
・台湾に行く
・スカイダイビングに行く

この中だとスカイダイビングは断トツで怖い。まず私は高所恐怖症なのだから、べらぼうに怖い。もし失敗したら死んでしまうかもしれない。
ただ車にひかれて死ぬ、電車に激突して死ぬ、薬に狂って死ぬ、暴走した初号機に殺される、などよりは空から落ちていって死ぬほうが幸福な死かもしれない。そんな風に思ったら、「そういうのって、パラシュートとかが開かなくて、恐ろしい思いをして死ぬんじゃないの?」と言われた。では、スキューバダイビングにしてみようかと考えたが、こちらもおそらく窒息死なのでタチが悪そうだ。
他に良さげな死に方が出来るダイビングもなさそうなので、どのような死に方が良いのか考えてみた。流石に老衰や安楽死というのは芸がない。
私は死ぬなら、概念になって死にたい。気づいたらふっとそうなっているような感じで、概念になって死にたい。概念になって死ぬのなら贅沢は言わないけれど、例えば閉塞感などになって死にたい。
「悲しいお知らせです。◯◯君が概念になってしまい亡くなりました。今はとても辛いですが、◯◯君の分まで、体育祭の長縄を頑張って、優勝しましょう。」
先生がこう告げると、皆は変わったように練習を始めた。回数が61回、63回と少しづつだが増えていく。誰も◯◯のことは言わなかったが、彼が概念になって死んだことが原動力の一つになっていることは間違いなかった。
「61…62…63……64……」
今までの最高記録を越えても、誰もドキドキしたり、そこで満足したりはしなかった。心なしか、縄を回す手が早くなる。
「94……95……96……97……96!」
96回。断トツで最高記録だ。皆は少しだけ満足気味で、これで2組にも3組にも勝ち、優勝出来るようなかもしれない。わずかに安堵感が漂った。
しかし、現実はそう簡単ではない。本番に近づくにつれ、最高記録どころか、今まで普通に跳べていた50回すら跳べないことが増え、20回程度で掛かることも多くなった。プレッシャーからか、暗いムードになっていた。2組のベストも90回を越えたらしい。そうやって最後の幾日かを無駄に費やし、とうとう調子を戻せないまま、本番を迎えた。
本番。どんよりとしたムードはそのままだった。このまま跳ぶのか……。なんとか調子を戻す方法はないものか……。そう感じていたとき、急に1人が呟いた。
「◯◯だ……!◯◯がいる!」
皆は辺りを見た。そして次々に口に出した。
「本当だ◯◯だ!」「おい◯◯、ここにいたのか!」「いつの間にいたんだ、◯◯!」
本番に向かうその前、焦り、不安、そして間違いなくそこには閉塞感があった。彼らは◯◯のために跳ぶことによって、自然とそこに◯◯を呼び出していたのだ。
「よし、◯◯。一緒に跳ぼう」
おう、という返事が聞こえたかどうかはわからない。代わりにパン、というピストルの音が聞こえた。そして隣のクラスの「イーチ、ニィー」という声が聞こえた。
××は大きくうなづくと、縄跳びを回し始めた。「イーチ、ニィー……」
それは昨日までの練習とは明らかに違うものだった。◯◯を見つけた1組の皆は、数を意識することなく跳び続けた。
もう一度パン、と終わりの空砲がなった。結局最後まで一度もひっかかることはなかった。皆が戦った表情をしていた。
「1組、348回。優勝、1組!」
皆が跳びはねて喜んだ。抱き合った。それは学校新記録でもあった。拍手の音が鳴る。泣いているものもいた。348回を跳びきった達成感に溢れていた。だが、誰かが気付いて声をあげた。
「◯◯だ!◯◯がいない!」
跳ぶ前は明らかにそこにいた。跳ぶ瞬間まで明らかに一緒にいたのだ。しかし、真剣に一回一回跳ぶごとに今まで感じていた閉塞感は明らかに消え去っていった。もうそこには、◯◯はいない。喜びが悲痛な声に変わった。そしてまたもうひとつ、叫び声があがった。
「おい、待て。××もいないぞ!!」

✳︎

優勝トロフィーを持ちながら、先生は言った。
「悲しいお知らせです。××君が概念になってしまい亡くなりました。◯◯くんに続き残念ですが、××君のためにも残りの学校生活を悔いなく過ごしましょう。」
それに笑うものはいなかった。失望感が漂いはじめた。その瞬間、教室に再び異変が走った。そして、誰かがこう言った。
「先生、今度は△△がいません!!」

キャスト
先生 - 先生
閉塞感 - ◯◯
達成感 - ××
失望感 - △△
生徒 - エキストラのみなさん
と、なりかねないので、果たして概念になって死ぬのも幸福かはわからないけれども。どういう死に方なら幸せに死ねるのだろうか。